天文

 天文に関する現象は、国家の存亡に関わる予兆として捉えられていました。陰陽寮の監督下には、天文博士以下10名の天文生で組織された部署がありました。毎晩夜空を観測し、異変があれば天文密奏を行っていました。
 以下、昭和46年発行の名田庄村誌からの抜粋です。

 陰陽道の天文とは、月星辰等の天体の運行をもって人間の運命を顕示するものとした。大宝令の制度においても、天文博士が天文気色を観候し、異変あれば密封して陰陽頭とともに奏聞することとなっていた。異変というのは、具体的には、日食・月食・歳星・辰星・流星・紫雲・五色雲・天降異物等をいう。上村で生まれたとされる安倍久脩の天文勘文が、納田終にのこされているので、次にかかげておくことにしたい。

今月十八日□□大出転変南北且後皈然赤□□
天地瑞祥志伝、地出光如火照、国亡兵火起百□流亡之応也、必見流血積骨也
尓雅日、流星大而疾日奔星、霊帝中平二年五月有流星、如火長十余丈、孝武丈元六年十月有奔星、東南占日、楚地有兵軍□百姓流散
天地瑞祥志伝日、飛星所下多死亡飢荒氏人疾疫
伏惟去三月以来此大飛行之妭希代儀也、天道之事聊不可軽忽、早致祈於神祇宜除兵火之災流亡之患者也、謹以所勘如件
天正十一年四月廿七日  正五位下 安倍朝臣久脩

 天地瑞祥志伝等の文献を微証とし、天道の異変は、いささかも軽忽にしえないので、早く神祇に祈祷して、兵火の災難や人民流亡の患を除くべきであるとしている。天変地異ー祈祷ー天下泰平という、天文系陰陽師としての安倍家の面目を伝える史料と目しえよう。

歳星・・・木星。五惑星の中でも木星の運行が重要視された。
辰星・・・水星。 
紫雲・・・紫色の雲。これの出現は吉兆とされた。
五色雲・・・彩雲、瑞雲、慶雲等ともいう。太陽の近くの雲が緑や赤に彩られる現象である。吉兆とされた。